研究内容

偏光⇒電流(検出)

一次元らせん構造を有する有機-無機ハイブリッド薄膜の構築と円偏光検出


偏光は、人間の目では検出できない有用な情報を含みます。例えば、リンゴに光が当たると物体の材質・色・凹凸などの表面状態や反射の角度などによって偏光度が変化しますが、通常、その変化が見えません。もし、偏光が検出できると、物質の表面状態を識別することができます。

直線偏光の場合、物体表面の傷・異物・歪みなどの可視化ができ、円偏光まで見えると、複屈折(応力等)の強度・分布などまで識別できます。しかし人間の目は偏光を検出することはできないので、偏光を検出するには、カメラなどのイメージセンサが必要にあります。カメラなどのイメージセンサには、光を捉えるためのフォトダイオードが内蔵されておりますが、フォトダイオード自身は偏光を直接、識別できないので、偏光子をこのようにアレイ型に積層する必要があります。しかし偏光子を利用したこのような構造は、感度低下をひきおこし、円偏光まで検出しようとするとさらに波長板が必要となるため、著しく感度が落ち、綺麗に像を捉えることが難しくなります。ここでもし、円偏光を直接検出(=吸収)するための構造があれば感度を低下させるフィルターは不要となります。そこで、本研究では、円偏光を高感度に検出するため、フィルターレスで円偏光を直接検出できる構造、つまり、円偏光を選択的に強く吸収し、光電変換する新しい材料の開発を行っております。

これまでに、有機キラル分子と無機錯イオンのヘテロ界面を溶液中で制御することで、一次元らせん構造を有する無機結晶薄膜の作製に成功しました。例えば、ハロゲン化鉛ペロブスカイトからなる鎖状構造は、有機キラル分子との相互作用により系全体にキラル配向が誘起されます。本系では、無機結晶全体に一次元らせん構造が誘起され、有機キラル分子よりも数千倍強い巨大円偏光二色性(~3000 mdeg)を示すことが明らかとなりました。さらに、一次元らせん結晶薄膜を受光層として用いることで、右あるいは左円偏光を選択的に検出する光検出素子の作製し、円偏光を電流信号として直接検出することに成功しました。キラル有機分子やプラズモニック・メタマテリアルを用いた円偏光検出に関しては報告例がありますが、偏光消光比(左右円偏光の検出感度の比、RLCP/RRCP<4)や光検出感度が著しく低いため、課題が多くあります。これに対し、有機キラル分子により誘起された一次元らせん構造を用いた本系の偏光消光比は25.4であり、円偏光を直接検出する素子として最高値を達成しています(Science Adv. 2020, 特願2020-093727)。

光子レベルで偏光(特に円偏光)を検出することができれば、量子状態から生体分子に至るまで、これまで明らかにされてこなかった新しい現象や機構の解明も可能となるかもしれません。